「Battle of offence and defence」 月の明るい夜でした。 私は屋敷の部屋の一つに入り、音を立てないようにドアを閉めた。 そのまま床にへたり込んでしまう。 ああ、なぜ。 「はぁ…はぁ…」 なぜ、こんなにも息苦しいのでしょう。 どうしてこんなにも目の前が霞むのでしょう。 「…ぐっ…」 咽返る胃液を、ぐっと押し留め、からからになった喉へ唾液と一緒に飲み込む。 一緒に出てきた涙をそでで拭い、顔を上げた。 ふと、月明かりだけの窓に反射した私の顔と目が合う。 私のお気に入りのネコミミも、片方の耳が千切れてしまっていた。 「…ふふ…無様ですわ。さすがはエージ爺、統率力にかけては抜きん出ていますわね」 レイピアを持った手が震えている。 1kgとない軽い剣とはいえ、振り回しつづければ疲れも出てきます。 もはや此方側の士気は瓦解し、仲間がどこにいるのかも分からない状態。 おそらくみんな、私と同じようにゲリラ的に戦闘を仕掛けるのが関の山でしょう。 とはいえ私のこの状態、敵主戦力との戦いは避けたいところですわね。 「………ふぅ…」 カツン 「!」 一瞬にして体が強張る。 息を殺し、背中に神経を集中させる。 いえ、これではダメ。反撃に移れない。 足音は近づいてくる。この不用意さ、上手くいけば奇襲できるだろうか。 いいえ。 この足音の主がまさにそれを狙っているのなら、来ると予測されている攻撃は奇襲のうちに入らない。 ならば真っ向勝負のほうが勝算はある。 しかし、問題は戦力。もし相手が飛び道具を所持していた場合、私の武器では一方的に不利になり得る。それは避けたい。 なら、通り過ぎるまで待つか… ……… ………いいえ、それも無理ですわね。 だって、この部屋のちょっと手前で、廊下の足音が止んでしまったんですもの。 気づかれているのなら、ぐっと話は単純になりますわ。 私は手近にあった椅子を持ち、扉を開けると同時にその椅子を廊下に投げ飛ばす! 敵に当てるためではない。ほんの一瞬、敵の気をそらすためだ。 接近戦なら悪くても五分に持ち込ませる。 飛び道具で椅子を狙ってくれたらしめたもの。 しかし最悪の場合――椅子に少しも気を取られず、まっすぐに私の出てくるドアを、飛び道具で狙っていた場合。 それが銃口だったとか、最悪ですわ。 「くっ」 ルマンドさんのキリっとまっすぐな瞳が、私を狙っていた。 私のレイピアを目の前にしてなお揺るがず。 私に銃口を向けていました。 「あー、みんなどこ行ったんだろうなぁ?」 「この屋敷、大きいもんね」 そのころ、別の廊下を歩いていたのはクラッシュルマンド・ビターたんとエリーゼ(白)たん。 だらだら歩いているが、気は張り詰めている。 この二人、ルーベラたんと同じ側だったのだが、エージレス爺の巧みな戦術によって全員散り散りになってしまっていた。 どうにかこの広い屋敷の中で、仲間の一人に出会えた互いは、戦力を建て直そうと屋敷を歩き回っているのであった。 「他のみんな、大丈夫かな」 「大丈夫なんじゃねぇの。ま、わかんねってのが正直なところだな。大丈夫でいてくれ、って思う」 「うん、そうだよね。私も同じ気持ち」 「あのやり手の爺のことだ。追撃なんかとっくにでてるだろうな」 「私たちを畳み掛けるチャンスだもんね。クラビタちゃんと会えたのは、ラッキーだったね」 「ああ、一人と二人じゃ、対応力が違う。とは言っても、敵も二人以上で行動しているはずだ」 「確実に潰しにきたね」 「…そうだな。こんな奴を差し向けてくるんだから」 クラビタたんとエリーゼたんが立ち止まる。 その二人の行く手をさえぎるべく、丁字路の廊下から二人の影が立ちはだかる。 一人は銀髪。肌は浅黒く、表情は月明かりに照らされて、それでもいつもの無表情だった。 手に持った拳銃はワルサーP99。手の小さい彼女が選んだ、グリップを自分のサイズに変更できる銃。 ごくり。と、クラビタたんがつばを飲んだ。これはなかなか、厄介な相手が来てしまった。 そしてチョコリエールたんの隣に立つのは、エリーゼ(黒)たん。 そう、エリーゼの姉妹がここに対面したのである。 「お姉ちゃん」 「…できれば、他の子を見つけたかったわ」 「でも、仕方ないよね」 「ええ、仕方ないんだわ」 エリーゼの二人は少ない会話で互いを分かり合っていた。 分かり合ってなお、戦わなければならない。 4人が一斉に構える。 静かな刹那の緊張。 最初に動いたのはクラビタたんだった。 「どっせい!」 掛け声とともにグシャァ!っと自分のすぐ横の壁をハンマーでぶち破り、その穴から部屋の中に転がり込む。 エリーゼ(白)たんもそれに続いて部屋の中に飛び込んだ。 チョコリエたんの銃弾が脇を掠める。 「援護してください!」 「はい」 エリーゼ(黒)たんが、言葉とともに駆け出す。それに応えるチョコリエたん。 壁に穿った穴から部屋の中に飛び込むと、そこは客間だった。 20畳はあろう広い部屋に、クイーンサイズベッドとクローゼット、冷蔵庫ぐらいしか身を隠せるようなものはない。 部屋の中に人影はなし。 ただ開かれた窓から舞い込む風が、カーテンを揺らすのみ。 「下の階に逃げた?」 「どうでしょう。まだこの部屋に隠れているかもしれません」 「追い詰められるだけなのに?」 「こうやって考えさせて時間を稼ぐなら、下に逃げるほうが得策ですね」 窓から下を覗き込むチョコリエたん。 下の階の窓が割れている。どうやら、間違いない。 「追います」 「…そこから追うの?」 「同じルートを辿るのが確実です」 そう言うやいなや、チョコリエたんはカーテンの端を掴み、窓の外へ飛び出す。 振り子の原理で戻り、手を放して下の部屋へ飛び込んだ。 「…ここ、4階だよね…」 残されたエリーゼ(黒)たんが呟く。 さすがにそうそう真似できない。 躊躇っていると、背中に気配を感じた。 「!」 振り向いた瞬間に身体をひねる。そうしなければ、頭を殴られていたから。 そのまま勢いで転がり、立て直す。 追撃はすぐにやってきた。一撃一撃、素早く繰り出されるパンチをしっかりて見切ってかわし、受ける。 部屋から差し込む光に見えたのは、エリーゼ(白)たんだった。 「部屋にも、残って、いたのねっ!」 「戦力の分断が、現状での得策と思ったの!」 大ぶりの一発を両腕で受けるエリーゼ(黒)たん。 そのまま二人の動きが止まる。 くぐもった銃声が、下の階から響く。 「お姉ちゃん。何を考えているの?」 「どういうこと?」 「何で自分の気持ちに素直にならないのよ」 「………」 「黙るのは、それが図星だからなんでしょ?」 「だから…何を言っているのよ」 「私にはわかる。姉妹の絆じゃないよ。お姉ちゃんと私は、同じなんだ。お姉ちゃんも『こっち側』の人間だから、私にはわかるの」 いつのまにか、手にこめられた力は緩んでいた。 色と性格が違うだけで、そっくりな二人は、鏡のように対峙した。 その二人の間に、闘争の気配が無くなっていくのを、当の本人たちは感じていた。 「………こっち、おいでよ。お姉ちゃん」 「…わからない。わからないのよ。自分がどっち側の人間だかなんて、私には…」 「だったら。なんで、そっちにいるの?」 「………」 「中立になる手段もあったのに。うん、そうだよ。戦うことを拒否すればいい。お姉ちゃんだったらそうすると思ったのに」 「妹が戦っているのに?」 「じゃあなんで敵になるの」 「多分…いいえ、そうなんだわ。アイデンティティの確立。妹と己の相違が必要だったのよ」 「そんなの必要ないよ。お姉ちゃんには、お姉ちゃんのいいところがある。私、知っているよ」 「…そう。そうね。あなたは」 エリーゼ(黒)たんがエリーゼ(白)たんの頬に触れた。 優しく、愛でるように。 「優しいわね」 「お姉ちゃん」 「………」 「………終わらそうよ」 「………」 「私たちの手で、終わらせよう」 「ええ、分かったわ。…あれを、使うのね?」 首を縦に振る妹。 数分後、彼女たちの姿は屋敷の中から消えていた。 3階の部屋に降り立ったチョコリエたんは、部屋から出て行くクラビタたんを確認した。 走り出すと同時に2発、3発と弾を放つ。 それらをかわし、廊下の奥へと逃げるクラビタたん。 チョコリエたんが部屋を飛び出したすぐあと、またクラビタたんは廊下の曲がり角に隠れるように逃げていく。 (逃がさない) クラビタたんの消えた角を同じように追うチョコリエたん。 その瞬間! 「どぉーりゃー!」 怒号一発! 曲がり角ごと突き破って現れる、クラッシュハンマー! 鉄塊がチョコリエたんを薙ぎ払う。 吹っ飛ばされるチョコリエたん。しかし、クラビタたんの追撃はやまない。 人を吹っ飛ばした感触にしては、柔らかすぎた。 飛ばされながら、空中で体制を立て直すチョコリエたん。 ハンマーに砕かれる寸前、自ら飛ぶことで衝撃を最低限に抑えている。 「はあっ!」 ドンッ! ッキィン! 着地を狙って振り下ろされるハンマーを、ワルサーの一発で反らすチョコリエたん。 着地し、それでもまだ受けきれない衝撃を、後にでんぐり返ることで受け流す。 そこを真横から、再三ハンマーが襲う! グシャァッ! 壁がまた破られる。 さすがは常にハンマーを持ち歩いているだけのことはある。 破壊力も、迅速な使いまわしも一級。 「けど、それでもまだ、遅い」 返す四度目の薙ぎを、チョコリエたんは避けて跳んだ。 前へ。 「まずっ!」 「私の、勝ち」 ハンマーを大きく振り抜いて、攻撃力を失うその瞬間、それは決着の瞬間となった。 零距離から狙った一撃は、成す術なくクラビタたんのひたいに、食い込んだ。 「………上は、どうなったかな…」 静けさを取り戻した辺りに、電子音が響いた。 チョコリエたんは懐から携帯端末を取り出す。 端末からの音声は、彼女たちの司令からだった。 「…はい、一人片付きました。………ええ、引き続き……」 淡々と報告をする中、相手から新たな情報が伝えられた。 「………エリーゼたんが逃走………?」 ここは、屋敷から離れた場所に建てられた教会。 ここには闘争の空気はなく、条約で守られた不可侵の中立地帯。 教会の扉の前には、一対の姉妹が立っている。 帽子についたベールが、風に微かに揺らされていた。 「銃声が」「やんだね」 ふたつの影が、一つの声となって辺りに響く。 「屋敷の窓からうっすらと見えていた」「銃の光も見えなくなった」 一人の言葉をもう片方が語り継ぐように、彼女たちは会話をしている。 「ホワロリたんに」「報告しようか?」 「そうね、私が」「行ってくるわ」 この場合、どっちが行くんだ? そんな疑問を残しつつ、チョコケーキたんとバームケーキたんは、二人して教会の中へと入っていった。 「あなたも生き残っていたのね」 「簡単にやられてたまりますか」 ルマンドたんとルーベラたんが、並んで、寄り添うように身を縮めていた。 双方とも気を張っていたせいで、互いを敵と認識しながら壁越しに警戒しあっていたが、いざ飛び掛ってみればびっくり、同じ軍の仲間である。 「…といっても、現状で戦線を回復できるとは思えませんわ」 「どうすればよろしいと思います?」 「まずは散った仲間を集めるしかないですわ。集まった時点で司令部を設立致しましょう。……ぐすっ…えくせ姉さま…」 「ルマンドさん…」 えくせたんは、ルマンドたんの姉であり、彼女たちの司令だった女性。 そして、真っ先に敵軍に狙われた人。 「総員、撤退せよ! 遺憾ですが、総司令部を放棄しますわ!」 「えくせ姉さまも、はやく!」 「ルマ。…いえ、ルマンド。私は残らなければならない。私には果たすべきことがあるのです」 「そんなっ。姉さまがいなければ、みなの士気に関わりますわ! どうか、私が引き止めますから!」 「だめよ。これは、司令部を失った総司令に対する、戒めよ。…私にはもう、抵抗する力はないの」 「姉さま…」 「お願い、ルマ。なんとしても生き延びて。そして、世に知らしめてやって。私の、私たちの――」 ドンッ! 「……姉さま……ねえさ…ね…… いやああああああ!!!」 「………ぅう………」 ルーベラたんは、ルマンドたんをそっと抱き寄せた。 彼女は目の前で、姉が倒れていく姿を見たのだ。 力なく横たわった姉を置いて、彼女の願った、生きるということを選ぶのが、どれほど辛いことだったろう。 「す、すいません…ルーベラさん… ………でも、もう少しだけ… …こうさせて下さいませ」 「ええ」 ルマンドたんは、ルーベラたんに縋りついた。 普段仲の悪い二人だが、泣いている人を目の前にほうって置くことなど出来ない。 ルマンドたんもルーベラたんも、そんな優しさを持つ人である。 しばらくして… 「ありがとう。もう、いいですわ」 「大丈夫ですの?」 「はい、私たちには、まだ成すべきことがあるのです。ともあれ、これで二人になって安全度は増しました。積極的に友軍の回収に乗り出しましょう」 「そう。そうね、急ぎましょう。追撃が来る前に――」 グシャァ! 突如、彼女たちの背中の壁が破られた! 立ち上る粉塵の中から出てきた人影。肩に担いだ大きな鉄の塊。この壁をぶち破るパワーの持ち主は。 「クラルマたんね」 「ええ、一人なのかしら」 埃を払って立ち上がる二人。 『音』は背後でした。 「そんなまさか、ですの」 反射的に身構える二人。 背中合わせになり、ルーベラたんはクラルマたんへ、ルマンドたんは『音』のしたほうへ銃口を向けた。 ルマンドたんの銃は、名器Cz75。欠点は、落としただけで歪むといわれるほどの耐久性のなさ。しかし、採算度外視で作られたこの銃は、命中精度も高く、グリップは非常に持ちやすい。気丈ながら流麗なボディは、まさにルマンドたんの一品。 その銃が狙う先は… 「良い夜ですね。思わず、ヴァイオリンを奏でたくなるような」 いつの間に回りこんだのか、アルフォート・カフェオレたんがヴァイオリンを片手に、月明かりの差し込む窓際に立っていた。 幾ばくかの沈黙が流れる。 最初に轟いたのは、ルマンドたんの銃声だった! ガゥン! 甲高い雄叫びを、柔らかな動作で避けるカフェアルたん。 次の引き金を引こうとした瞬間、ルマンドたんとルーベラたんの表情が変わった。 「戦慄の前奏曲(プレリュード)」 カフェアルたんの腕が華麗に動く。 そしてそのヴァイオリンは奏で上げた。 死の旋律を。 ギコギコギキャキャギョケギィーゴーキュキュキ 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…ふっ、音楽って、儚いものです」 「ちゃんと練習ぐらいなさいまし!」 深く嘆きのため息をついたカフェアルたんに突っ込むルマンドたん。 てーかあんたはどっかの第2ドールか? 「然しながら、威力はホンモノ! できれば、この技を使いたくありませんでしたわ」 「黒板を爪で引っかくような音を出すんじゃないでしょうね」 「…………」 「…………」 「ルマンドさんは、いけずです。ぐすん」 落ち込んだ。 迷わず3発ばかり引き金を引くルマンドたん。 それを飄々と避けきって、クラルマたんと合流するカフェアルたん。 「てーか、あんたたちは何で戦わないんですのっ!」 「い、いや。あまりにもあまりな展開にその」 「我を忘れちまってな」 敵方と会話を交わすルーベラたんとクラルマたん。 なんか和んでいる気がする。 「ま、まぁ行きましょうか。戦力は似たもの同士。ルマンドさん、援護射撃、よろしくですわ」 「おう、やる気マンマンだな、そうこなくっちゃ! カフェアルっ、援護しろよ!」 駆け出すレイピアの少女と、ハンマーの少女。 クラルマたんを狙い定めるルマンドたん。 しかしその刹那、その顔が目に入った。 カフェアルたんの、嫌な笑みが。 (なに…なんですの、この感覚は) それは本能の判断だった。 クラルマたんへの射撃を止め、とっさに『その方向』へ銃を放った。 弾丸は見えない何かに打ち消され、空中で四散する。 そのすぐ後、ルマンドたんの髪を風が揺らした。 「良くぞ見破りましたわ。流石は、と言ったところでしょうか」 「衝撃波…いえ、『音』ね」 「如何にも。指向性を持つ私の『音』は、いわば追尾する銃弾。さぁ、この見えない銃弾を、どこまで避けられますか?」 カフェアルたんの右腕が霞んだ。 襲い掛かる『音』の銃弾! しかし、それはルマンドたんに届くことはなかった。 ルーベラたんのレイピアの一振りで、その『音』は掻き消されたのだった。 「なっ」 「所詮は音ですわ。真空を伝わることは出来ません」 「レイピアの振りで真空を作り出したか。やるな」 「お褒めに預かりまして」 「じゃあ今度は、オレの番だ!」 ハンマーを上段に振りかぶるクラルマたん。 その槌の威力は、鉄筋コンクリートだろうと砕く。 振り下ろされ、床にめり込むクラッシュハンマー、しかし。 「…え?」 その瞬間に、もはや決着はついていた。 地に突いたハンマーから伸びる柄に乗ったルーベラたん。 そして彼女の剣は、すでにクラルマたんを突き刺していた。 「どういうことだ…」 「私たちを誰だと心得ておりますの? 集計屋さんランキング、2位と3位(3月32日現在)の相手に挑んでいるのが、まだ分からないのですか?」 「ぐっ…え、援護…はどうなっているんだっ」 クラルマたんがルマンドたんを見る。 彼女は驚愕で目を見開いた。 いまだ『音』の攻撃を続けるカフェアルたん。ルーベラたんを狙い、ルマンドたんを狙うその銃弾のこと如くを、ルマンドたんの銃弾が撃ち砕いていた。 「なんだと…」 「いっそのこと、本当の銃弾だったら良かったのですわ。周りへの影響が大きすぎますのよ、その『音』は」 「…粉塵か…」 ルマンドたんは、その見えない銃弾を、クラルマたんが壁を撃ち砕いたときに出た粉塵を頼りに、カフェアルたんの攻撃を防いでいた。 ほとんどの埃は地面に落ちてしまっていたが、本当に細かい塵だけが、煙のように漂っていた。 「い、一撃もあたらないなんて! そんなの、そんなの!」 なおも銃弾を繰り出すカフェアルたん。 突如。 その背後に、一人の影が現れた。 「に、逃げろ! カフェアル!」 「貴女はもう、お黙りなさい」 ルーベラたんがクラルマたんへ止めを刺した。 カフェアルたんの後ろから現れたのは。 「ハァーイ! お元気ですかー?」 ラテショコラたんが、場に似合わぬ能天気な声で現れた。 ちなみに、ルマンドたんと同じ軍である。 「ああっ、なんかピンチの気配がヒシヒシと伝わってきます!」 「ああっ、なんかややこしいのが現れた気がそこはかとなく!」 ラテショコラたんとルーベラたんが同時に声を上げる。 いや、ピンチなのはカフェアルたんの方なんだけどな。 直後、ルマンドたんはルーベラたんの手をとって走り出した! 「オゥケィ、ここはワタクシ、ラテショコラが相手ですわよ、カフェアルたん! ささ、今のうちにお逃げくださいな!」 「お願いしますわ、ラテショコラさん!」 「ちょ、ちょっと、ルマンドさん! 一人で相手させちゃって良いのですか!?」 「あそこにいたら、私たちもろとも全滅ですわよっ!」 びゅーんと、屋敷の廊下を奥へと逃げていく二人。 それを見送ってラテショコラたんは、カフェアルたんと向き合った。 「さぁっ、勝負と参りまショウ!」 「の、望むところです!」 対峙する二人。 カフェアルたんが思考をめぐらせる。 (か、勝てる。ラテショコラさんなら、勝てるんだから! ラテショコラさんより、順位上なんだから!) 「それでは、覚悟は良いですね? イきますよ!」 身構えるカフェアルたん。 いったい、何をイく気だ? と、ラテショコラたんはいきなりマイクを持ち出し。 「俺の歌を聞けぇ!!!」 「まてゴルァ!」 流石に突っ込みを入れるカフェアルたん。 しかしラテショコラたんは構わず、大きく息を吸い込み、こう歌い上げた。 「ほげ〜〜〜〜!!!」 「いやあああああああ!!!」 いつのまにか、「らてしょこらリサイタル」と書かれたステージが、キラキラ輝いていた。 もうシリアス展開じゃねーや、これ。 続く …なんかもう、ホワロリじゃないね。 SSメニューに戻る