「Battle of offence and defence」 「両軍とも疲弊」「しているようです」 「…そうですか」 「一方的な戦いかと思ったのですが」「意外とゲリラ戦で粘っているようで」 「もう、いいですよ。お茶でも飲みましょう」 「はい」「はい」 教会の礼拝堂からすぐ奥の部屋に、いわゆる中立の女の子たちが集まっていた。 ホワロリたんのほか、まだ幼い方のアルフォートたんや、ミニルマたん、プチビットたんがいる。 開戦とともに中立を宣言したホワロリたんを中心として、総勢6名がこの教会で一夜を過ごしている。 不可侵条約が結ばれているものの、戦争は狂気だ。 いつ戦闘に巻き込まれるか分かったものではない。 幼い3人もそれを承知しているのか、表情から険が消えない。 ホワロリたんが紅茶を淹れ、チョコケーキたんとバームケーキたんに差し出した。 「どうぞ」 「いただ」「きます」 レモンシトラスの香りが体の疲れを癒す。 ダージリンをベースに調合された、シトラスミックスドティーだ。 「美味し」「いい香り」 それぞれの感想に、満足そうに微笑むホワロリたん。 しかし、その表情の下では、いろいろな思いが巡っている。 この戦いは、いつになったら終わるのだろう。 いつになれば、またみんなと仲良く笑って過ごせるのだろう。 それとも、もう二度と笑いあうことなんて出来ないのだろうか。 ふぅ、と重いため息をひとつ漏らした。 不覚にも、二人にそれを聞かれてしまった。 「大丈夫だよ」「これはきっと夢」 「………夢?」 「そう、朝になれば解けてしまう魔法」「のように、朝になれば戦いは終わるよ」 「そう…そうだよね。朝になれば」 「朝に」「なれば」 「大丈夫? 立てる?」 そう言って彼女は、へたり込んでいるカフェアルたんの手をとった。 せーの、と引き上げ、立たせる。 「う、うん。ありがとう、お姉ちゃん」 「うん、どういたしまして」 月影に佇む眉目秀麗。 カフェアルたんの自慢の姉、アルフォート・ビターたんだった。 そばには、先ほどまでリサイタルを続けていたラテショコラたんが倒れている。 「さすがお姉ちゃんだね、あっという間に倒しちゃった」 「はは、流石に慣れているから。対処法があるのよ」 「慣れてる?」 「あ、しまった」 「お姉ちゃん!」 「うきゃぁっ」 膨れっ面のカフェアルたん。 どうやらビタアルたんの耳は、既にカフェアルたんによって開発済みだったらしい。 ……… ………なんかエロいな、この表現。 どうやらビタアルたんの耳は、既にカフェアルたんによって調教済みだったらしい。 ……… ………直球過ぎかな。 どうやら既にカフェアルたん×ビタアルたん。 もうなにがなにやら。 てーか、カフェアルたんが攻めか。 やっぱり、年下攻めは基本ですかね。 「お話を進めてもいいかしら?」 「お姉ちゃん、誰とお話してるの?」 「大人の事情って奴よ」 「うーん、私、よくわかんない」 とりあえず二人は歩き出した。 ひとまず、司令部へと戻るルートをとる。 「さて、現状の連絡は行っている?」 「いいえ、端末なんて取れる状態じゃなかったんです」 「まぁ、そりゃそうか。迅速に現状を述べるわね。此方は、クラルマちゃんの撃破以外には、エリーゼ(黒)ちゃんの脱走が一件」 「脱走?」 「エリーゼ(白)ちゃんも一緒にこの屋敷から逃げ出したの。しかも、単なる戦闘放棄じゃない」 「なんで?」 「軍を抜けるのなら、中立宣言しちゃえばいい。それをせずに屋敷外へ逃げ出したってことは」 「…独立軍?」 「恐らく。そして、私たちに対抗し得る武器を調達しに行ったと考えるのが妥当ね。そして敵の動きだけど、これがなかなか、苦労させられているのよね」 「そ、そうっ。ルマンドたんとルーベラたんが合流しているの」 「厄介ね。でも、総司令のえくせたん、私が今倒したラテショコラたん、それにクラビタちゃんの撃破が確認されているわ。エリーゼちゃんたちの脱走を平等に見ても、撃破数は3対1。圧倒的とまではいかないけど、十分な戦果ね」 「みんな倒れていくんだね…」 「………カフェアル?」 「…悲しいな… クラルマたんも、守れなかった…」 「…カフェアルのせいじゃない」 ぎゅっと、カフェアルたんを抱きしめるビタアルたん。 抱きしめてくれた腕を、そっと手にするカフェアルたん。 そこで彼女は見た。 ビタアルたんの手に握られた、銀刃を。 「お、お姉ちゃん?」 「静かに…近い」 思わずカフェアルたんにも緊張が走る。 次の瞬間、予備動作無しで振り向きざまにナイフを投げるビタアルたん! しかしなんと、背後から現れた彼女は、そのナイフを叩き落していた。 それも、2本とも。 「片手で2本のナイフを、振り向きながら、しかもワンアクションで投げてくるとは。さすが、ですね」 月影に優しげな微笑を携えて現れたのは、青いドレスが麗しい、セピアート婦人だった。 ビタアルたんは戦慄した。 見えなかったのだ。 わずかに霞んだ彼女の腕。それがナイフを叩き落した手刀であるはず。 しかし、ビタアルたんの目には、それが見えなかったのだ。 彼女がナイフを叩き落す、その瞬間が。 「…カフェアル、ここから、一人でいけるかしら?」 「お姉ちゃん?」 「それはよい提案ですね。私も、ビタアルさんとはサシで決着をつけたいと思っていました」 「で、でも…」 「いいからはやく。セピアさんが有利な条件を提示している内に」 「…え、そ、そんな」 「さぁ、お急ぎなさいな。何でしたら、貴女を叩いてから、改めてビタアルさんと戦っても構いません」 「………カフェアル。行きなさい」 「…………」 「…………」 「…………」 「…ご、ごめんね、お姉ちゃん!」 ぱたぱたと駆け出すカフェアルたん。 その姿が闇に溶けるまで、二人は動かなかった。 カフェアルたんも、ビタアルたんも、セピアート婦人も、分かっているのだ。 ここで一番強いのは、セピアート婦人だと言うことを。 カフェアルたんとビタアルたんが共闘しても、芳しくない結果になることも分かっていた。 「…さて、妹を逃がしてくれたことに感謝します。何をご所望で…?」 「あらやだ。私は、そんな血腥いことは好きじゃないのよ」 「はぁ」 「だから、もっとスマートな方法で決着をつけたいと思っているんです」 「お話はわかりました。如かして、勝負の方法は?」 「ついていらっしゃいな」 と案内されたのは… 地下の駐車場であった。 「ビタアルさん。車は運転できまして?」 「は? ええまぁ、免許は持ってますけど。というか、今日も車で来たんですし」 「あらまぁ。それでは話が早いですわ。この勝負」 「………カーチェイス?」 「走り屋としての血が騒ぎますでしょう?」 いや、騒がん騒がん。 てーか、走りで勝負って、それでいいのか? 戦争は? おい? 「望むところです…私のロータリーサウンドを、その耳に刻み付けて差し上げましょう!」 ノリノリですかそーですか。 そしてここに突如、レース対決の火蓋が気って落とされたのだったァッ!(もうヤケ 低い目線で、身体をガッチリとホールドするバケットシート。 それに座り、重い扉を閉じる。 4点式シートベルトを締め、イグニッションをまわす。 ブォン 独特なエンジン音。13Bロータリーインタークーラーターボ。 今ではめっきり見なくなったリトラクタブルライトの瞳が開き、スイッチがオンになる。 ボディカラーはビターな彼女に似合う、ブリリアントブラック。 この色は、FC3Sのなかでもスポーツカーとして造られたアンフィニにしかない。 ビタアルたんの駆る車、その名はサバンナRX−7。 対するビビッドブルーのこの車。 フロント、リアのどちらからも中央に輝く、赤く縁取られたH。そして最高グレードをあらわす赤のR。 車重はスポーツカーとしては軽めの1080kg。 エンジンに取り付けられたVTECは、エンジンの回転数で吸排気バルブの量とタイミングを切り替え、燃費とパワーを両立させたシステムである。 アクセルを踏み込み、轟音といえるほどまでエンジンを回す。 8000回転での最大馬力は200。 そして二つの鉄馬は、美しい騎手を伴ってゆっくりと動き出した。 地下駐車場を抜け、敷地内を走っていく。 夜は静かだ。 先ほどの喧騒(騒音という)からは想像もつかないほど。 星は綺麗で、宵闇は暖かい。 どちらからともなく、正門の前で車をとめた。 「良いですわね。ぶっちぎったほうが勝ちですわ」 「了解です。これが私たちの、戦いです」 「合意と見てよろしいですね!?」 第三者の声は彼女たちの前方から聞こえた! 蝶ネクタイとつぶらな瞳がまぶしい、老紳士が現れる! バックにライトを背負い、なんとも勇壮なるいでたちだ! ……… ………間違ってるよ。 登場作品間違っているよ、ミスター。 「このバトルは公式バトルと認定されました!」(なんの? クラッチを切ったまま、アクセルを踏み、回転数だけ上げていく二人。 ギアをニュートラルから、ロウへ。 「それでは行きますよ?」 熱く滾る 黒き船乗り アルフォート・ビターたんか。 爽やかな色気 群青の螺旋 セピアート婦人か。 二人の思いが今、交錯する。 「レディー! ゴー!」 ギャアアアアアアというスキール音を残して、2台は勢いよく走り出す! 先に頭を出したのは黒のサバンナ! さすがは3000回転から一気に加速していく13BT。 ここらは、前輪駆動と後輪駆動の差もあろう。 そして2台は、夜の闇へと消えていった。 遠くから聞こえる、けたたましいタイヤの悲鳴だけを残して。 っていうか、ゴールどこだよ? 「というわけで、現在屋敷では大規模に戦闘が行なわれています」 「私たちは、それを終わらせるために、ここにきたのです」 白と黒のエリーゼたんたちが、対面する人に話す。 その瞳は真剣で、真っ直ぐだ。 曲げようのない意志を目の前にしたとき、大抵の人は、止めるのを諦めるか、協力してしまう。 カフェアルルたんも、そうだった。 「………分かりました。倉庫の鍵を取ってきますわ」 そう言って、リビングの奥へと入っていく。 二人は緊張した身体を緩めて、同時にため息をついた。 「緊張、する?」 「そりゃ、そうだよ。あんなのに乗るの、初めてだもん」 「どっちが操縦しよっか」 「………お姉ちゃん、お願い」 「あ、ずるいよ」 「やだよ、私のせいで落ちたら嫌だもん」 「仕方ないわねぇ。じゃあ、私の背中、預けるわよ」 「おまかせあれー」 きゃはははは、と笑う二人。 これからあの屋敷より、さらに危険地帯へと進むというのに。 彼女たちは笑っていた。 カフェアルルたんがもどってくる。 「さぁ、お二方。パイロットスーツを着てくださいな」 「はいっ」「はい!」 彼女たちが進む危険地帯は、空。 暗い空を飛び、あの欲望渦巻く屋敷へと、舞い戻るのだ。 そのために二人は、この飛行場へと足を運んだのだった。 「着ながらで結構です。搭乗機は、エンジン推力5200kg、アフターバーナーで9100kg」 「ちょっと少なくありません?」 「そ、そうなのかな…」 「払い下げ品なので、仕方ありません。最大速度はマッハ2。固定武装はM61ガトリング。弾はフルチャージしています。モードは毎分4000発にセット。撃ち始め最初の0.5秒間は、砲身が安定しませんのでご注意を。また、連続最大射撃時間は3秒です」 「は、はぁ」 「銃弾の種類は?」 「徹甲弾と曳光弾を、4:1です。搭載兵装ですが、ベトナム戦で使われたスパローから、最新型サイドワインダーまで豊富に取り揃えていますよ。あ、対地攻撃ですか? 誘導爆弾のペイブウェイはもちろん、通常爆弾も250ポンドから2000ポンドまで。実は内緒ですが、燃料気化爆弾も一発用意できますよ」 「え、えーっと…」 「それじゃあ、250ポンド火薬抜きで」 「畏まりました」 「あのっ、ねえ? 突っ込みなし!?」 「あと、できればその最新型ってやつの詳細を…」 「えーっとですね、JHMCSと連動してですね…」 「ねぇ、無視ですか? …ぐすん」 一人おろおろするエリーゼ(白)たんを残して、淡々と作業をこなしていく二人。 一通りの話は済んだのか、3人でガレージへと移動する。 滑走路が目の前に広がる。 夜空は満点の星。月明かりは、強い。 綺麗、と誰かが言った。 ガレージの扉を開くとそこには、可変翼の美しい機体が眠っていた。 「さぁ、今夜のお供、F−14トムキャットですよ」 「まぁっ、猫ちゃんですね」 「じゅ、獣姦は、どうなんだろ。どうなんだろ」 なんか勘違いして、顔を赤らめているのが一人。 灰色の機体を眺める二人。 「さ、搭乗してくださいな」 「え、でも、兵装の積み替えとか、やることは色々あるんじゃ…」 「それなら、私たちにお任せをっ!」 「なにやつ!?」 ガレージの奥から顔に現れたのは、ドジっ子店員たんと、バイト2号くん! 二人も今まで作業していたのか、顔にオイルがくっついている。 「僕達が、離陸までをサポートするよ。カフェアルルたんは、管制室にどうぞ」 「ちゃきちゃきっと、整備やっちゃうからね!」 「お二方…何故ここに?」 「それは僕から説明しましょう。当コンビニエンスストアでは、お客様へのアフターケアも万全に仕事をさせていただいております。これも、その一貫だと思っていただければ」 「えーと。つまりこのF−14、そちらのお店で?」 静かに尋ねるエリーゼ(白)たん。 その問いは、どちらかというとカフェアルルたんに向けられている。 「それじゃあ皆、可及的速やかにテイクオフよ」 「ええっ、ねぇっ!? またもスルーですか!?」 「ふにゃーん!!」 ドジっ子たんの悲鳴に、みんなが振り返る。 そこには、情けない声をあげなら、サイドワインダーの下敷きになっているドジっ子たんがいた。 「AIM−9って、重いですぅ…」 85kgの鉄棒に潰されながら、ドジっ子たんは呟いた。 てーか、航空戦力を売るコンビニって、なんなんだ? 「ちなみに戦闘機に限らず、コンピューター、自動車、株券、不動産、技術人員のレンタル、金融なども取り扱っております。トッププロジェクトでは現在、民間用モビルスーツの転用も進めていますよ」 さいですか。 というかそれはもうコンビニじゃないぞ? そんなこんな話をしているうちに、F−14の整備が終わりました。 「This is Command Room. Can you hear me? Your call sign is Elise1.」 「エリーゼたんへ。こちら通信司令室、聞こえますか?」 「Yes,I can. This is Elise1,I appear in a runway for take off from now on.」 「はい、こちらエリーゼ。これよりテイクオフのため、滑走路に出ます」 「Roger. Good Cruise.」 「了解。良いクルーズを」 「By your clumsy instructions, do not make a mistake.」 「ちゃんと、私たちを見失わないで下さいよ」 「I have technique than you. Do not get wet.」 「ご心配なく。ちゃんとここから、見ていますわ」 「You are abnormal. Suck the nipple of a mom.」 「ありがとうございます、カフェアルルさん…その」 「Die,You SOB!」 「なあに?」 「I will do a fuck of you!」 「帰ったら、またお茶をご一緒しましょう」 「You look forward to crashing.」 「楽しみにしていますね」 突っ込んだら負けかなと思っている。 空は満天の星空。 そして地上の星は、滑走路沿いに点灯している。 エンジンの音がキィーーンと、耳を劈く。 「Elise1,you are cleared for take off.」 「離陸を許可します、エリーゼたん」 揚力最大。 低速で転がし、少しずつ速度を上げていく。 推力最大。 アフターバーナーを焚き、速度は160ノットオーバー。 機首上げ。 ふわっと持ち上がった機体は、宵闇を切り裂き、空へと上がっていった。 続く …たぶん、あと2話くらい。 次へ(未作成) SSメニューに戻る