「ホワロリたん達のバレンタイン前夜」

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St.バレンタイン・デー。世間一般の定義はさておいて、市場のチョコレートやクッキー菓子が1年でもっとも輝く日。
そして、ホワイトロリータスレッドから生まれた少女たちが、日頃の感謝を込めてスレの住民たちに恩返しする日である。
そんなバレンタイン・デーを明日に控えた夜。少女たちはそれぞれ手作りの贈り物の最後に仕上げに取り掛かっていた。

「ふぅ、できましたわ。」

一番乗りで完成したのはルマンドたん。
綿密に立てたスケジュールをきちんとその通りにこなし、既にラッピングまで済ませてある。明日の準備は万端といった様子だ。
「さて、と。ちょっと他の方々の様子を見てくるとしましょうか。」
消灯には少し早い浅夜の刻。ルマンドたんは廊下を歩き出した。


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『ホワイトロリータたんの部屋』



コンコン


「ホワロリさん、いらっしゃいます?」

「ルマンドちゃん?ちょっと待って、今開けるね。」

最初はお隣のホワイトロリータたん、通称ホワロリたんのお部屋。
ルマンドたんの呼びかけにそう答え、ほどなくドアの間からホワロリたんが顔を出した。
と、同時に部屋から漂ってくる甘いミルクの香り。

「今年もホワイトチョコレートなのね。」

「うん。私のシンボルカラーだもん。」

ホワロリたんのバレンタインチョコは毎年ホワイトチョコをメインに作っている。
テーブルの上にはハートをかたどったホワイトチョコに文字書き用のチューブチョコ他色とりどりのトッピング具材。
あとは飾り付けてラッピングすれば完成のようだ。

「私の方はもう出来上がったから貴女のお手伝いにきたのだけれど、どうやら必要なさそうですわね。」

「うん、私の方は大丈夫だよ。ここよりバムロルちゃんの方が何か大変そうだったからそっちの様子をみてあげて。」

と、タイミングを計ったかのようにザザーッと何かをひっくり返したらしい大音と同時にキャーッと悲鳴が上がる。
お隣さん、バームロールたんことバムロルたんの部屋からだった。

「・・・なるほど、あちらは大変そうですわね。それじゃ私バムロルさんの部屋を見てきますわ。」

「うん、気をつけてね。」

ホワロリたんに見送られながら、ルマンドたんは隣のバムロルたんの部屋に向かった。


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『バームロールたんの部屋』



ドアの前まで来たところで再び何かをブチ撒けたようなけたたましい音とバムロルたんの悲鳴が上がる。

「あーーーぁ!ミルクが!ミルクがぁ〜〜〜ぁ!」

(一体何が起きてますの・・・?)

コンコン

「バムロルさん?大丈夫?入りますわよ?」

内情を気にしつつ、それでも律儀にノックをして呼びかけてから、ルマンドたんはドアノブに手をかける。

「あ!あ!今は開けちゃ駄目ですーーーーーーー!!!」

時すでに遅し。ルマンドたんはそのままドアを開いた。

ゴンッ

ドアが何かに当たった?と思う間もあらばこそ。


どんがらがらがっしゃーーーん!ばたばたごろごろざらざらざらずしゃーーーーっずざーーーーーーどどどどどど!!!


「・・・・・・・・・・・・」

目の前では日用雑貨を使った盛大なドミノ倒しが展開されていた。



「・・・だから常日頃からこまめにお部屋を片付けるようにと言っておりますのよ。」

片付ける手は休めずにルマンドたんは愚痴をこぼした。

「う〜ん・・・一応片付けてはあったんだけど・・・」

「部屋の端に積み上げるだけでは片付けたとは言いませんわよ!」

バムロルたんの言い訳を掃除用具を棚に戻しながらルマンドたんは返した。
さっきあれだけの惨状があったとは思えないほどバムロルたんの部屋は小奇麗に片付いていた。

「ありがとう、ルマンドちゃんのおかげで前より綺麗になったよ〜。」

あくまでマイペースにのほほんとお礼を言うバムロルたん。これでも一応ルマンドたんより年上である。

「ルマンドちゃんってホント片付け上手さんですねぇ。きっといいお嫁さんになれますよ〜。」

「な////// ・・・そ、そんなことよりバムロルさんは明日のバレンタインの贈り物は何を作ってらっしゃいましたの?」

「あ、それは〜ええと、クッキーを焼いて・・・」


もくもくもく・・・


言ってるそばからタイミングを計ったかのように黒煙が上がる。

「あー!オーブンで焼いてたのを忘れてましたぁー!」

「・・・・・・さて、作り直す準備でも始めましょうか。」


言うまでもなくクッキーは完全に炭と化していた。


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『チョコリエールたんの部屋』



あの後、バムロルたんの炭化クッキーの後片付けを済ませて部屋を後にしたルマンドたんは、さらにその隣のチョコリエールたんことチョコリエたんの部屋の前まで来ていた。
(チョコリエさんはちゃんと準備していらっしゃるのかしら・・・)


コンコン

「チョコリエさん、調子はいかがかしら?」
例によってノックし、呼びかけてからドアを開く。室内は真っ暗で静まり返っている。
消灯にはまだ少し時間はあるはずだけど。もう眠ってらっしゃるのかしら、などと思いながら部屋を出ようとした途端、


バタン!


「!?」

「(´・ω・`)やぁ」

「ようこそぶるぼんはうすゑ〜」

突然退路を断たれ、部屋の明かりが灯された。部屋の主、チョコリエたんともう一人。飲み仲間のブランチュールたんことブランたんだ。
足元には地元の名酒 越の誉大吟醸の空瓶が転がっている。
どうやらまた二人で酒盛りしていたらしい。そして案の定、二人とも既に出来上がっていた。


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説明せねばなるまい。
チョコリエたんとブランたんは、普段はやや大人しいところや無表情なところ、何を考えているのか得体の知れないところはあるものの、
ホワロリたんやルマンドたんと同じく真面目で何でもそつなくこなせる、いわゆる「出来る」娘である。
ただし、二人は無類の酒好き且つ典型的絡み酒タイプで、ひとたび酒が入ると正確は豹変、イケイケでノリノリ(死語)な性格になってしまうのだ!

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二人は瞬く間にルマンドたんを囲んで近づいてきた。

「ちょっと二人とも飲み過ぎですわよ!しっかりなさいな!」

「まーまー。」

「この八海山はさーびしゅだから、まず飲んでおつついてほすぃ。」

二人の口から強烈な酒気が漏れる。呂律も怪しい。完全に悪酔いしている。

「ちょ・・・やめ、私、お酒は苦手ですのよ!」

「いぃ〜いじゃないですかおくさぁん。」

「はぁはぁ。」

「誰が奥さんか!?って・・・ひゃうっ、ちょ、どさくさにまぎれてどこを触って・・・あっー!」

二人の酒気だけでルマンドたんはほろ酔い状態になっていた。てか、酒弱すぎ。
しかしそんなルマンドたんの事などお構いなしに(むしろここぞとばかりに)ルマンドたんの服を剥ぎ取ろうとするチョコリエたんとブランたん。
二人掛かりで捕まえられてはもともと華奢で非力なルマンドたん、たとえ万全の状態でも到底逃げられるものではない。

「りゅまんどさん、カヲが赤いでしゅわ〜」

「汗もかいてきてましゅよぉ。おようふくぬぎぬぎしましょーねぇ。」

「や、やめてくださいましーーーーっ!!!」


「はいはい、その辺になさいな。」

不意に第三者、(第四者?)の声が上がる。と同時にチョコリエたんとブランたんの頭上に冷水がかけられた。

「はうっ!ちべたいっ!」

「はれ?私たちは一体何を・・・」

目を白黒させる酔っ払い二人の背後にはコップを持ったネコミミ・・・ルーベラたんが立っていた。


「・・・助かりましたわ。」

二人から解放され、身なりを整えてからルマンドたんは一応礼を言った。一応。あくまで一応。

「まったく、私がいないとダメダメですわねぇルマンドさんは。」

「うぐ・・・・・・それはそうと、貴女が助けに来てくれるとは正直意外でしたわ。」

「そりゃ貴女、隣の部屋で騒がれていては安眠できませんもの。仕方なく、ですわよ。」

「うぐぐ・・・・・・」

ルマンドたんとルーベラたんは顔を合わせれば両者とも皮肉混じりで会話を始め、終いには喧嘩になるという文字通りの犬猿の仲である。
ただ、今回はルマンドたんは助けられた側という事もあってやや言い負けていた。

「まぁまぁお二人とも」

「そんな不毛な言い争いはその位にしてどうです、一杯?」

『貴 女 た ち は 1 ヶ 月 禁 酒 で す わ ! ! 』

「オーノー・・・」

「そんなご無体な」

ルマンドたんとルーベラたんのハモった一声に再び黙るチョコリエたんとブランたん。というかおまいらまだ飲む気か。


「・・・それで、貴女方は当然バレンタインの贈り物は出来てるんでしょうね?」

「ええ、まぁ」

ルマンドたんの問いにチョコリエたんは棚から一升瓶を取り出す。山形の純米吟醸・くどき上手。

「ボトルチョコってことで。」

「・・・それのどこにチョコがあるのかと小一時間・・・」

ルマンドたんとルーベラたんはもうツッ込む気力は残っていなかった。


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『ルーベラたんの部屋』



チョコリエたんの部屋でひとしきり騒いだ後、ルマンドたんとルーベラたんは部屋に入った。二人でルーベラたんの部屋に入った。

「ちょっと何平然と私の部屋まで入って来てますの!?あなたの部屋はあちらでしょう!?」

「え、いや、その、まぁ、ここまで来たら全員の部屋にお邪魔しないといけないよーな気がしまして。」

「・・・私はもう寝ますの。貴女も少し酔われてるのだから早く部屋に戻ってお休みなさいな。」


時計を見れば消灯時刻はとうに過ぎていた。普段、規則正しい生活を送っているルマンドたんにはかなりの夜更かしだ。

「そうですわね・・・それじゃあ私これで・・・あ・・・」

足が絡む。そのままフラリと真後ろに体が傾いた。

「あ・・・れ・・・?目が、回・・・・・・」

ルマンドたんの顔が真っ赤に火照っていた。さながら泥酔状態である。直接飲んでないのに泥酔ですかルマンドさん?
転倒する直前、ルーベラたんが背後に回りこんでルマンドたんの身体を支えた。

「あーもう、世話が焼けますわね!・・・まったく、ホントに私がいないとダメダメじゃありませんの。」

「あう・・・」

ルマンドたんは既に夢の中。
やれやれ、と、ルーベラたんは語気とは裏腹にちょっと優しい表情でルマンドたんを肩に抱きかかえて自分のベッドに寝かせ、自分は傍らのソファーに毛布片手に横になった。


「ふぁ〜・・・おやすみなさい、ルマンドさん・・・」




明日はSt.バレンタイン・デー。ホワイトロリータスレッドから生まれた少女たちが、年に一度、日頃の感謝を込めてスレの住民たちに恩返しする日。
スレの住人達の喜ぶ顔を夢見て、少女たちの夜は更けていく。・・・・・・約2名を除いて。




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「あぁ〜!!なんか多いと思ったら小麦粉の分量を一ケタ間違えてましたぁ〜〜〜!!!」

「ひゃあ・・・ここまで作る前に気づいてよ〜バムロルちゃん・・・」

深夜のブルボン女学院寮棟の一室。
どこかのコンビニの店員のような悲鳴を上げて半べそかいてるバムロルたんと、手伝いに来たら大量に出来上がっていたクッキー生地を見て呆然とするホワロリたんの姿があった。
これだけの量、全部焼いていたら夜が明けそうだ。

二人の安眠の刻はまだ遠い・・・
負けるなホワロリたん!頑張れバムロルたん!





いちおう、完ってことで・・・

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